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食物実技講習会

第23回食物実技講習会より

『食料の確保と安全対策』

1.問われる食の「豊かさ」

食料はわたしたちの生命と健康を支える最も大切なものですが、今日、輸入食料の増加や食生活の大きな変化によってその安全性は脅かされ、安心はますます遠のきつつあるように思われます。 効率一辺倒で化学資材を多用してきたことによる農業の環境問題。農村は疲弊し、極端に低い食料の自給率。なのに大量に食料を世界中から輸入しながら、残飯など大量の食品廃棄物を排出し続けている。 これが、日本の食料と食卓の現状です。

2.21世紀の世界の食糧はどうなるのか

21世紀前半の食糧需給の見通しは、決して楽観できないと思われます。アフリカ諸国やアジアの発展途上国を中心に、人口増加と食糧供給のバランスが各地で崩れ始めているからです。 特に発展途上国の農業では、耕地や水資源の制約からくる生産の限界、分配面における市場機能の限界、増大する人口のための食料の増産と外貨獲得のための輸出向け農産物への偏重などの理由から、 環境に配慮する余裕はほとんどなく、土壌劣化や水資源の枯渇、塩害や砂漠化の拡大など、農地や水などの資源の劣化が人類の未来に暗い影を落としているのです。

3.食の国際化と食品安全問題

規制緩和と農産物貿易の自由化の進展によって、「食」のグローバリゼーションは日本の食卓に様々な影響を見せはじめています。本来、食生活あるいは食文化そのものは、それぞれの国や地域(あるいは民族) ごとに固有のもので、不変性・持続性の強いものです。それは気候や風土条件に強く影響を受け、地域に適合する農作物によって伝統的はぐくまれ、世代を超えて受け継がれるからです。

しかし、食の国際化が進む中、さまざまなマイナス面の影響も少なからず見え始めてきました。それは例えば、栄養の偏り、食品安全にかかわる問題は O−157やBSE(いわゆる狂牛病)問題に象徴されるように、近年、世界各地で多発し、 国内はもとより国際的にも大きな社会問題となっています。いかに日本の消費者が食料・食品の安全性に敏感に反応するようになったが、また、輸入食品が氾濫する中で日本の食品安全に関わる管理体制や関係企業の危機管理が いかに不十分であるかが問われています。

4.スローフードのすすめ ──食・農・環境からの見直し ──

20世紀後半は、いわゆるファースト・フードが全盛をほこり、世界中の食卓を大きく変えていきました。日本にも急速にこれを受け入れてきました。それは食材の輸入、それも低コスト食材の大量輸入につながり、流通・加工システムの近代化という土俵の上で外食産業の発達と食卓への新たな加工食材を次々と提供してきました。そのことが実は今日の日本農業のゆがみ、人々の栄養と健康上の問題、そして環境面での歪みをもたらしてきたことと決して無関係ではありません。

1980年代中ごろから、イタリアでスローフード(SLOW FOOD)という重要な食文化が生まれ、その後、日本を含めて徐々に世界中にその輪を広げています。文字通り「ゆっくりと地域の食材を噛みしめて、本来の食事を楽しみませんか」という考え方です。

私は、このスローフードの構造を、次の3つの側面に分けて考えています。一つは地域農業、二つ目は食生活、そして三つ目は環境です。もともと食、農、環境は、本来は一つのものとして長く維持されてきました。やがて近代化という流れの中で、食と農は離れていき、作る人と食べる人の距離は遠くなり、お互い顔が見えなくなりました。地域農業と環境とのつながりも徐々に切り離されてきました。

地域の食材は本来、新鮮で筍の味を提供してくれ、栄養価にも優れています。逆に、食生活から地域農業が離れることによって、食品の栄養が失われたり、安全性もより不確実なものとなってしまうのです。地域の風土や食生活に基づく食生活によって、最も大切な栄養宇亜健康という価値がより確かなものになるのではないでしょうか。

スローフードのすすめ

スローフードの構造を示すのが「環境」「地域農業」「食生活(食文化)」の三つのサークル。その土地の環境と食文化に根ざした地域農業から、伝統食や地域の食材がうまれる。それは旬の味を提供してくれる。旬の味は風味だけでなく栄養価にも優れることはよく知られている。したがって食文化と地域農業が離れていく(矢印)ことで食品の栄養が失われ、また作り手が見えなくなるために食品の安全性も失われやすい。 逆に地域食材や伝統食のもつ価値をより多くの人が認識すれば、地域農業は発展する。環境に配慮しない農業によって、生物・生態系・農業資源が失われる。 食品加工や食生活で出てくる残飯はすべて有機物であるから、堆肥化して土に戻せば(リサイクル)、安全で豊かな食料生産のための農地づくりができる。飽食・放食は二つのサークルを離れてしまう。 三つのサークルを相互に近づけ、重ねていくことがスローフードのすすめ。それが実現して初めて生命とくらしが守られるだろう。


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